岡家住宅は滋賀県蒲生郡日野町大字鎌掛に所在し、岡榮美氏(岡太郎治夫人)が、次男岡誠氏夫妻の新居として昭和14年に建てたものである。木造2階建て、赤色桟瓦葺の近代和風住宅で、設計は昭和13年、近江八幡のヴォーリズ建築事務所による。日野町は滋賀県の南西部に位置し近江八幡より南東に約20kmの山間部の町で、かって近江商人の活躍でも知られている。
本住宅は、大正・昭和にみられる中廊下式の建築様式をとっており間取りは、建屋中央に中廊下を設け、各部屋には壁面収納の押入れ、クローゼット、作り付けタンス等を設け生活動線の効率化を図った、住みやすい設計となっている。2階屋根は切妻造、東の平屋部は入母屋造、玄関周りは瀟洒な和風意匠となっている。一方、外壁は黄土色モルタル仕上げでの大壁で、赤色桟瓦と共にモダンな外観を構成する。加えて表通りに面した切妻壁面は小屋束間を灰色漆喰の真壁とし和の意匠を強調している。
住宅の特色を2点にまとめると、第1は昭和初期における典型的な中廊下式の和風住宅であり、加えてサンルーム、近代的設備を持つ台所、2階に洋室寝室を備えて近代化を図ったもので良質な和洋折衷型ともいえる。第2の特色はヴォーリズ建築事務所の設計による住宅で、次の2点が注目される。一つはヴォーリズらしい設備としてのレンガテラスをもつサンルームの設置、台所設備や階段の設計に特色があり、2階寝室など欄間を備えた大きな窓が用いられ、処々にヴォーリズの設計思想が読み取れる。もう一つは意匠において、玄関のインテリア、サンルームの飾り棚、2階の出窓など個性があり潤いを与えている。また、座敷や縁側の導入はヴォーリズ住宅として珍しく、殊に東面玄関周りの和風意匠には興味深いものがある。
なお、当家住宅は昭和50年頃、サンルームの拡張など増改築されている部分があるが、内外観とも概ね当初の意匠を留め、良好に維持されている。また、建設当時の設計図面、仕様書、工事関連の各種見積・領収書など、建築時の資料を良く残しており歴史的価値を補うものとなっている。(以上、大阪芸術大学教授 山形先生の「岡家住宅についての所見」より抜粋)
ヴォーリズの作品というと洋館を連想するが、この家は和洋折衷の純和風建築である。ヴォーリズの和風建築として独立家屋で現存が確認されている物件は、全国で10軒前後では無いかと言われています。
ヴォーリズの建築は、暖かみがあって住み心地が良いと言われる一方で、デザインは個性的とは言われない。それでも、この建築家の作品に魅力を感じるのは、生活を重視した建築だからに他ならない。彼の建築活動は素人からのスタートであったがゆえに、施主と同じ生活者の目線で住まいが考えられているのである。和風建築の中に存在するヴォーリズのエスプリを感じ取って頂ければ幸いです。
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